その病に足をつっこんだのは、おそらく高校2年生のとき。おそらく、というのはわたしに病の自覚がなかったから。
わたしの通う高校は、家から住宅路を歩いて5分の場所。地元の中ではちょっとした派手高校だったかな。スクールカーストではちょっと悪い子、派手な子、可愛い子が圧倒的に優位になる、そんな文化。
もともと太ってるわけじゃないけど、そりゃ人なみに顔の肉は気になるしスカートだって短く折りたいし、「あの子かわいいよね」のリストにちゃんとわたしの名前が載ってたいじゃん。
高校での会話なんてだいたい彼氏かダイエットか誰がどの子と付き合ってるかって話。ある日、どっかの誰かの一言から広まり学校でダイエットブームが起きた。 最初は、休み時間にみんなで分け合うお菓子がチョコからグミへ。食べ順を変えたらいいだとか夜は炭水化物を抜いたらいいだとか。みんなであーだこーだちょっかいを出しながら「○グラム減ってた!」「いや誤差やろw」なんて言いながらダイエットもどき生活を送ってた。
1ヶ月もすると次第にいつもの日常に戻っていくみんな。わたしだけがダイエットの世界に取り残されたまま時間が過ぎていった。
ちょっとずつわたしの毎日を、わたし自身を、数字で管理していく。
みんなが彼氏と連絡をとる時間で私は食品のカロリー表をずっと眺めていた。家族がソファに寝転びながらテレビを見て笑う隣で、私は電動バイクを漕ぎ自分で課した宿題を毎日毎日こなしてた。
何かにつけて友達からの誘いを断ってランニング、親に「夕飯食べてきた」と嘘をついてまで夜ご飯を食べたくなかった。
数ヶ月もすると、わたしの毎日が、わたし自身が、数字で管理されていった。
体重は15kg近く落ちて、体脂肪率13%、低血圧、無月経、慢性胃炎、便秘と私の体は「あなたの体もう無理ですよ」と叫んでいる。
でも、もうその頃のわたしは「体重が増える」ということが非理論的に怖くてたまらない。私の体重が10g減るたびに、私の価値が高くなるようで。私は注目されるべき人間になっていて。多少の体のガタなんて、「か弱く(可愛く)綺麗になれた・・🌟」というサインとして写っていた。
学校で言われる「どうやって痩せたん?すごいわぁ」「ほんまに顔ちっちゃい!」という言葉が気持ちよくて、街で男の子に二度見されることが嬉しくて、わたしの行動は、努力は、間違っていないと確認する。誰もわたしを止められないし、口出しもできないよ。
授業を聞いていると木の椅子が坐骨に当たって痛かった。昼寝をしないと学校が終わるまでの体力が持たなかった。家に帰ると倒れるようにソファで仮眠を取った。それでも、取り憑かれたようにカロリーを消費するため夜の公園へ出かけてく。
心配しているお母さん、食べなさいというお母さん。お母さんが食べてよ。私より細いじゃん。食べなよ。食べて食べて。実際自分より体重のあるお母さんの方が痩せているように見えて、美しく見えて、羨ましくてたまらなかった。
自分が持ってないものを持っている友達が妬ましい。何でそんなに足が長いの?なんでそんなに髪が綺麗なの?なんでそんなに食べて体が細いの?なんで友達が多いの?そんなに笑ってるの?
素質がないなら私は努力をするしかない。痩せなきゃ。足りない分、足りない分頑張る。私は特別なんだから。
結局、この日常に終止符が打たれるまでは自分が既に足を踏み入れていた長い闇に気づくことはできなかった。
ある日を境に、わたしは数字に殺されることになる。
竹口和香